経営者は何時間眠ればいいのか|睡眠時間の正解と短時間睡眠の落とし穴

「経営者は何時間眠ればいいのか」。移動中や会食の帰りに、私はこの質問を本当によく受けます。世の中には、4時間で十分だという成功者の逸話も、最低8時間は必要だという記事もあふれていて、どちらを信じればいいのか分からなくなるのも無理はありません。私は15年、15,000件を超える身体を診て、300名を超えるトップアスリートの回復にも関わってきました。その現場から言えるのは、睡眠時間に万能の正解はない、しかし削ってよい限界は、あなたの意志ではなく身体のほうが決めている、ということです。

経営者に本当に必要な睡眠時間は何時間か

多くの成人にとって必要な睡眠は7時間前後で、経営者も例外ではありません。ただし、最適な長さには個人差があります。

一般に、成人の多くは7時間前後の睡眠で心身が安定するとされています。経営者だから短くていい、鍛えているから短くて足りる、という理屈はどこにもありません。大切なのは、平均値そのものより、自分にとって日中に強い眠気やだるさが出ない睡眠時間を知ることです。休日に目覚まし時計を使わず、自然に目が覚めるまで眠ったときの長さ。それが、あなたの身体が本当に求めている目安に近い数字です。私がこれまで見てきた一流のアスリートほど、睡眠を削らずにしっかり確保していました。彼らは経験から、睡眠こそ最も確実で、しかも一円もかからない回復手段だと知っているからです。ここを削るという発想が、そもそも彼らにはありません。

「短時間睡眠でも平気」という誤解

遺伝的に短時間睡眠で足りる人はごく一部で、大半の「平気」は、脳が慢性的な疲労に慣れて自覚が鈍っているだけです。

短時間睡眠でも本当に問題のない体質の人は、人口のごくわずかしかいないことが分かっています。多くの「自分は短くても平気」は、平気なのではありません。慢性的な寝不足に脳が慣れてしまい、パフォーマンスが落ちているという自覚そのものを失っている状態です。深く酔った人が「自分はしらふだ」と言い張るのに、どこか似ています。経営者にとって、判断こそが最大の仕事です。その判断の精度が、本人も気づかないうちに静かに落ちていく。静かだからこそ、これは一番こわい。「昔は3時間睡眠でも走り切れた」という過去の成功体験ほど、私は疑ってかかります。若さで無理が効いていただけ、というケースを何度も見てきました。

睡眠時間を削ると、身体と判断に何が起きるか

睡眠を削ると自律神経が乱れ、ホルモン分泌や脳の老廃物処理が滞り、集中力・感情の安定・回復力が同時に低下します。

眠りは、ただ休んでいる時間ではありません。身体にとっては、最も忙しい修復の時間です。睡眠が足りないと、自律神経が交感神経優位のまま固定され、血管も筋肉も緊張が抜けなくなる。翌朝まで身体がこわばったままになります。ホルモンの分泌リズムも乱れ、食欲や気分が不安定になる。さらに脳は、睡眠中に日中たまった老廃物を洗い流していますが、睡眠時間を削れば、その処理も追いつきません。結果として、集中力、感情のコントロール、身体の回復が、まとめて落ちていきます。これは気合いや根性で埋められるものではない。土台が削られていけば、その上に立つ判断が鈍るのは、当たり前の話です。

経営者が「睡眠を後回しにする」ときに見落としているもの

睡眠は削っても即座に痛みが出ないため後回しにされやすく、その代償は数か月後の不調として、まとめて表れます。

睡眠を削っても、翌日すぐに倒れるわけではありません。だからこそ、経営者は睡眠を真っ先に後回しにします。目の前の資料、返信、会食。どれも締め切りや相手がいて、待ったなしに見える。一方、睡眠には締め切りも相手もいません。削っても、誰にも怒られない。この「痛みが遅れてくる」性質こそが、睡眠を最も削りやすい資源にしています。ですが借金と同じで、利息は必ず後から、まとめて請求されます。数か月後の抜けない疲れや、原因のはっきりしない不調という形で。

私は人事の責任者だったころ、疲弊していく組織を数多く見てきました。共通していたのは、トップ自身が休むことを軽く見ていたことです。リーダーが睡眠を削って気力で押し切る姿は、一見すると頼もしい。しかし長い目で見れば、その働き方は組織全体へ「休むな」という無言の圧力として伝わり、じわじわと疲れを広げていきます。一流のパフォーマーが睡眠を最優先するのは、根性が足りないからではありません。それが結果を出し続けるための、冷静な計算だからです。

眠りの質で、睡眠時間の不足を補う考え方

どうしても長く眠れないなら、寝る前に身体の緊張を抜き、深部体温のリズムを整えて、眠りの深さで不足を補うのが現実的です。

とはいえ、経営者が毎日きっちり7時間を確保するのは、簡単ではありません。時間を増やせないのであれば、同じ時間でより深く眠るしかない。鍵になるのは、寝る前に身体の緊張を抜いておくことです。日中ずっと交感神経を高めて働いた身体は、布団に入ってもすぐには切り替わりません。首や背中、股関節まわりが固い人ほど、寝つきが浅く、眠り自体も浅くなりがちです。ここを緩めておくだけで、入眠から深い睡眠へ入るまでが早くなります。深部体温を意図的に下げて眠りを深くするリズムづくりは眠りが浅い経営者へ「深部体温リズム」を味方につける夜の整え方に、日々の過ごし方から睡眠の質そのものを上げる具体策は経営者の睡眠の質を上げる方法にまとめています。効果には個人差があります。大きないびきや日中の強い眠気が続く場合は、睡眠時無呼吸などが隠れていることもあるため、医療機関の受診をお勧めします。

睡眠時間に関するよくある質問

経営者の方から、実際によく受ける質問にお答えします。

4〜5時間睡眠でも結果を出している人がいます。

確かに、そうした体質の人は存在しますが、極めて稀です。多くの人が同じことをまねれば、判断力と健康を静かに削るだけに終わります。自分がその稀な一人だと決めつけないほうが、はるかに安全です。

睡眠時間は長ければ長いほど良いのですか。

そうとも限りません。必要以上に長く眠って、かえって身体がだるくなる人もいます。日中すっきり動ける長さが、あなたにとっての適量だと考えてください。

休日の寝だめで、平日の不足を取り戻せますか。

ある程度は回復しますが、体内時計が乱れて月曜がつらくなりやすい面があります。平日の起床時刻との差は、2時間以内にとどめるのが目安です。

まとめ

睡眠時間に、万人共通の正解はありません。ですが「自分は短くても平気」という思い込みだけは、手放してください。多くの経営者にとって必要なのは7時間前後、そして削るほどに、判断と回復は静かに落ちていきます。時間をどうしても増やせないなら、眠りの深さで補う。そのためには、日中に固めてしまった身体の緊張を、夜のうちにきちんと抜いておくことが要になります。眠りは、経営者にとって最大の投資です。もし自分の睡眠を、生活習慣だけでなく身体の面から本気で立て直したいと感じたなら、一度、身体の状態から専門家に診てもらうことをお勧めします。

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